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2016.10.25

Case Study

尾道市・ピンチョスコンテストに学ぶ Part 2

 尾道市で、「まちなみ再生(新開活性化)事業」の一環として、平成28年9月26日(月)に「尾道ピンチョスとドリンクコンテスト」が開催された。日本全国と世界の人々が尾道の「食」を楽しみに来訪いただける街を目指し、平成27年度からワークショップ、先進地視察を中心に取り組み、今回初めて「食」をテーマとしたコンテストの開催に至った。
 商業貿易港として栄えた尾道は、古くから多くの文人墨客が訪れ、近年では大林宣彦監督による尾道3部作で映画のロケ地として有名である。まちのあちこちに残る、海を望む階段や坂道、路地越しに見える尾道水道、旅情を誘う雁木などの優れたロケーションは、これまでに数々の映像作品の舞台となり、多くの名シーンを生んできた。そのノスタルジックな雰囲気に惹かれ芸能人のリピーターも多いという。
 今回は魅力的資源に溢れる尾道の新たな「食」によるチャレンジとその背景を探る。Part 1はこちら

「尾道ピンチョスとドリンクコンテスト」開催!

 「尾道リノベーションプロジェクト」中心市街地東側の活性化(まちなみ再生(新開活性化)事業)の一環で、今般「尾道ピンチョスとドリンクコンテスト」が開催された。
 ピンチョスとは、スペインの爪楊枝で刺してある一口サイズのおつまみのことで、スペインの北東部、バスク地方のサン・セバスチャン村にあるバー「ベルガラ」が発祥と言われている。日本でピンチョス・ブームを巻き起こしたホセ・バラオナ・ビニェス氏の定義では、1.一口で食べられる、2.複数の食材の組み合わせ、3.作ったら早く食べる、という3つの要素が入っていれば立派なピンチョスと呼ぶことができるという。
 本事業では尾道オリジナルの「食」を中心とした、美食観光、滞在型観光による交流人口の拡大を目的とし、美食都市として有名なスペイン‐サン・セバスチャンの研究・現地視察、4回のワークショップなどが行われてきた。スペイン サン・セバスチャンといえば酒のつまみに最適な「ピンチョス」が有名で、そこから今回のコンテストのテーマが設定されている。何故、サン・セバスチャンなのか、何故、ピンチョスなのか、この取り組みを担当してるまちづくり推進課山本淳課長補佐に話を聞いた。
 「サン・セバスチャンは美食として世界的に有名であるだけでなく、バル文化やノスタルジックな旧市街地があり、海岸沿いの都市であり、海の幸が取れるという当市と共通点が多い上に、都市規模的にも同程度です。世界からバカンスも兼ねて多くの観光客が訪れるサンセバスチャンを当市としては研究していきたい。サンセバスチャンの近隣都市のビルバオのシェフは日本に来られて日本食の研究をしていました。実はピンチョスのもとになっているのは京都の会席料理だという説もあます。会席の小鉢を参考にミニチュア料理と言われるジャンルの研究を行い、ハンバーガーを小さくしたようなピンチョスを開発したというものです。今では世界が注目するようなピンチョスやタパスというようなお酒のあてになるような料理が、日本人が作る料理と共通している面があるはずです。日本で言うスナックなどに置き換えると突出し(お店に入ると出てくる簡単な料理)に小鉢が出されるケースが多く、それがピンチョスに代わればどうだろう。新開という歓楽街も観光のエリアとして拡大していきたい。尾道市を中心に14店舗の飲食店を経営する㈲いっとくの山根浩揮社長は、スナックという文化がだんだん見直され活気を取り戻してきており、時間はかかるが復活するのではないかと話しておられ、行政としてもスナックを中心とした新開エリアに賑わいが戻ってくることを民間と協力して支援したいと考えています。その施策の一つが今回の『創業支援による持続可能なしごと創生』です。また、観光と言えばその土地の食事を楽しみに来られる方が多く、当市では現在、夜間景観を切り口とした夜間観光にも取り組んでいますので、そこに食が加わることでより一層の魅力が付加され、相乗的な取組によって交流人口を増やしたいと考えています」。
 尾道の定住人口は10年前に比べると1万人減少しており危機感もある。尾道ピンチョスとドリンクコンテストは、しまなみ街道サイクリングなどの影響から外国人観光客も増えている中、インバウンドを始めとした交流人口増加を意識した食の取り組みでもあるのだ。
 様々な思惑がある中で開催された今回のコンクールでは、審査員として地元観光協会や商工会議所、各種組合の代表者を始めとするステークホルダーだけでなく、サン・セバスチャン市観光局アランサス・ビッテリ氏、バスク美食倶楽部山口純子氏、山田チカラオーナーシェフ山田チカラ氏、レストランバスクオーナーシェフ深谷宏治氏、アルファブロガー中山記男氏など充実した専門家も迎えて開催された。

 決して広くはない尾道市民センターむかいしまの調理室で、今回は9組のチャレンジャーが料理の最後の仕上げを行って審査員に配膳し、緊張の面持ちでプレゼンテーションに臨んだ。審査員からはパンの大きさや味付け、食べやすさや彩りなど様々なポイントについて指摘、チャレンジャーが答えるという問答が繰り広げられた。最終的には、上位5作品が尾道オリジナルピンチョスとして認定され、メニューが共有化される。サン・セバスチャンもメニューの共有化で成功した美食都市である。徹底的にモデル化を図っていることが伺える。
 今後はピンチョスメニューを洗練させるとともに、ピンチョスを土台として尾道オリジナルの新たなメニュー開発に繋げていくことも想定されている。次年度以降はコンテストを継続させていくことはもちろん、セミナーや補助制度も充実させていきたいと意気込んでいる。