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2016.10.11

Case Study

尾道市・ピンチョスコンテストに学ぶ Part 1

 尾道市で、「まちなみ再生(新開活性化)事業」の一環として、平成28年9月26日(月)に「尾道ピンチョスとドリンクコンテスト」が開催された。日本全国と世界の人々が尾道の「食」を楽しみに来訪いただける街を目指し、平成27年度からワークショップ、先進地視察を中心に取り組み、今回初めて「食」をテーマとしたコンテストの開催に至った。
 商業貿易港として栄えた尾道は、古くから多くの文人墨客が訪れ、近年では大林宣彦監督による尾道3部作で映画のロケ地として有名である。まちのあちこちに残る、海を望む階段や坂道、路地越しに見える尾道水道、旅情を誘う雁木などの優れたロケーションは、これまでに数々の映像作品の舞台となり、多くの名シーンを生んできた。そのノスタルジックな雰囲気に惹かれ芸能人のリピーターも多いという。
 今回は魅力的資源に溢れる尾道の新たな「食」によるチャレンジとその背景を探る。

尾道市概要  

 尾道市は、人口14万1515人(平成28年8月31日現在)、広島県東部に位置しており、平成27年度に「尾道水道が紡いだ中世からの箱庭的都市」、平成28年度に「日本最大の海賊の本拠地:芸予諸島ーよみがえる村上海賊の記憶ー」が日本遺産に認定されるなど、全国有数の歴史的景観を遺す観光都市である。また、瀬戸内の十字路としての交流及び物流拠点都市でもある。この優位性を活かし、安定した仕事の場の創出、移住定住、子育て支援、安全・安心なまちづくりを目指している。主な産業としては、造船業、漁業、および海産物加工業、観光業、製造業(液晶パネル等)で、市内を見るとジャパン マリンユナイテッド、日立造船、JFE商事、尾道造船など造船業大手の工場が目立つ。市内飲食店主の話では、大規模工場の従業員による需要も大きいということだ。
 市内には複数のフェリー業者が本州‐向島‐因島‐岩子島‐生名島間を5〜10分単位で日常的に船をバス感覚で運行させている。船が重要な市民の生活導線となっているだけに、船の形態は人だけを乗せる小型のものから、車が乗れるもの、観光船まで幅広い。市民からの必要性が高く、近くに造船工場が多いからこそできる交通網である。
 この海上交通網も重要な役割を果たす「しまなみ街道サイクリングロード」が世界的に注目される中、市の中心市街地西側の尾道駅前には、県営上屋をリノベーションしたONOMICHI U2(自転車を持ち込めるホテルをはじめ、レストランやカフェなどを併設した新しいスタイルの複合施設)やレンタサイクルターミナルを利用するため多数の観光客が訪れるなど、その数は年々増加し、平成26年で年間640万人に達する一方で、市内の宿泊・飲食施設の不足から、1人当たりの観光消費額は平成26年で3884円と広島県平均の5840円を下回っている。ONOMICHI U2は福山市の大手造船会社の常石造船(株)が尾道市のまちづくりの取り組みに共感し、台湾のスポーツバイク製造大手のGIANTと連携して、民間主導で運営する観光商業施設である。県営の港湾倉庫をリノベーションしているため、海に沿ったロケーションや尾道駅、フェリー乗り場、主要道路にも容易にアクセスでき、新しい街の魅力・観光消費額の増加に寄与する起爆剤として期待される他、大手資本が尾道の観光的魅力を評価し、大型投資していることも他市の見本となりうる施設である。
 一方、観光エリアに隣接する商店街は店舗の老朽化・後継者不足等により空き店舗が増加傾向にあり、特に中心市街地東側に位置する歓楽街は空き店舗が多く老朽化が顕著で、人の流れが途絶え、賑わいが失われている。この歓楽街のさらに東側に位置する国宝の寺「浄土寺」もまた、商店街からの人の流れが途絶え、国宝の寺の魅力を十分に活用できていない。平成28年4月には、総務省の地域経済循環創造事業交付金を活用した温泉宿泊施設が商店街東側で営業を開始したものの、中心市街地東側の宿泊、飲食施設が乏しいこの現状を打開し、賑わいを創出するには、国宝の寺「浄土寺」の強みを活かし、浄土寺までの動線に位置する商店街、歓楽街の活性化による観光客の回遊範囲の拡大、滞在時間の延長が必要であると危機感を募らせている。

「尾道リノベーションプロジェクト」始動

ONOMICHI U2。福山市の大手造船会社の常石造船(株)が、台湾のスポーツバイク製造大手のGIANTと連携し、民間主導で運営する観光商業施設。

 そこで同市では、都市部まちづくり推進課を中心に地方創生推進交付金事業として「尾道リノベーションプロジェクト」に取り組んでいる。数値目標を平成29年3月末〜平成31年3月末の間に、観光消費額を2259億円から269億円へ、観光入込客数を658万人から675万人へ、創業支援者数を138人から178人へそれぞれ増加させることとしており、前述の「まちなみ再生(新開活性化)事業」もこの一環である。
 「尾道リノベーションプロジェクト」では以下の4つの事業を柱として計画されている。

中心市街地東側の活性化(新開活性化)プラン策定

 観光消費額を増加させる手段として、(仮)おのリベプロジェクトチームを組織化し、空き家、空き店舗をリノベーションにより多様な宿泊施設(ゲストハウス等)や魅力ある飲食店(尾道ラーメン、地元食材による創作料理等)に再生させるための手法や、将来の創業者となる若者等を育成するため、ワークショップやイベントを重ねながら賑わい創出について調査・分析し、中心市街地東側の活性化プランを策定する。また、(仮)おのリベプロジェクトチームが継続的に自立できる仕組みを確立するため、BIDの制度研究と導入可否の検討を行う。

観光客の滞在時間延長を目的とした夜間景観整備

 宿泊型の観光を進めるため、「尾道市歴史的風致維持向上計画」の重点区域である国宝の寺「浄土寺」の夜間景観整備を行い、観光客向けのビューポイントを設定するなど、まちの滞在時間の延長、宿泊客数の増加を図る。

創業支援による持続可能なしごと創生

 (仮)おのリべプロジェクトチームは、中心市街地東側へ賑わいを創出するためのイベント開催や、空き店舗等の情報管理・活用促進などを全国へ情報発信するとともに、このエリアで創業を志す若者等に対し、市のまちづくりの方向性に合った提案を審査し、創業費用を支援することにより、自立した創業と持続可能なしごと創生を図る。

民間による拠点施設の整備支援・活用

 東側エリアにおいて、観光客を呼び込む拠点施設(ビジターセンター等)を、民間がリノベーションにより整備することを支援し、その拠点施設に地産の素材をブラッシュアップし商品力を高めた尾道ブランドの野菜、果物、魚介類等を販売する物産館としての機能を持たせるとともに、「おもいでカード」を利用した地元産品の手軽な配送方法など日本郵便等民間事業者と連携して、多様なサービスを充実させることで、東側エリアへ人の流れを作る。また、拠点施設を尾道ブランド野菜等の朝市を行うなど集客の場として活用し、このエリアで行うイベントを広く発信し、魅力を高め、多様な宿泊環境を作り出す民間投資を誘発させ、宿泊型観光を増やすことで観光消費額を増加させる。