photo © Hideki Koide
近江インバウンド推進協議会では、2015年11月23日から27日にかけて、JNTO(日本政府観光局)の協力のもとシンガポールへの訪問を行いました。その様子をレポートします。
JNTO(日本政府観光局)の協力
JNTO( Japan National Tourism Organization)海外事務所の役割業務は、現地の訪日旅行の市場分析とマーケティング、現地旅行会社への日本向けツアーの企画サポートと販売促進、メディアへの広報活動、MICE・教育旅行の誘致と多種にわたっている。MICEは「企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)」のことであり、一般的な観光とは性格を異にする部分が多く、直接的な効果、派生する付加価値も大きい。
今回の訪問に関し、真鍋英樹所長を始めとするJNTOシンガポール事務所の皆様に協力を願ったのは、シンガポール訪日マーケットの情報・データの提供、現地旅行会社との商談のセッティング、現地の集客イベントの情報と成果状況の調査であった。その全てに完璧な対応をしていただき、効率の良いミッションとなった。
シンガポールの訪日マーケットについて
シンガポールの国民一人当りのGDPは56,287US$(世界9位)で、日本は36,221US$(世界27位)で、シンガポールGDPは日本よりかなり高い。更に、殆どの家庭が共稼ぎで、日本円で世帯年収1,100万円以上が一般的である。
シンガポールの訪日人数は、2014年で約23万人、2015年はそれを大きく上まる勢いで伸びている。また日本での消費額は355億円で、一人当り15.5万円を日本での滞在中に消費している。
シンガポールの特色として次の7つを上げることができる。
- 個人旅行(FIT)が80%と多く、団体ツアーは少ない。
- スクールホリデーと呼ばれる5月下旬から6月中旬、11月中旬から12月末の期間がシンガポールの旅行シーズン。
- 20〜40代女性がメインターゲット。
- 北海道・関西・九州の伸びが大きいが、関東・中部が減少傾向にある(関西の割合が19.4%)。
- 訪日目的は、食を楽しむことショッピングがメインだが、日本再訪時に期待することは自然・景勝地観光がトップ(旅館の宿泊希望も多い)。
- 訪日リピーター率が70%と高く、今後も期待できる。
- 一人当り年2.5回の海外旅行を楽しみ、今後はさらに増えると予想されている。
- 訪日滞在平均日数は7日。現在、訪日外国人の国別順位は第9位が、JNTOシンガポール事務所では30万人をターゲットとしており、これは国別順位7位に相当する。
更に、JNTOシンガポール事務所では、マレーシアのプロモーションも担当しており、シンガポールと同等の訪日客数を確保している。ただマレーシアの場合は、家族での訪日、ムスリム国からくるハラール※対応が必要となる。真鍋所長の話では「マレーシア人の観光はシンガポール人の影響が高く、追随してくる」との見解だった。
現地旅行会社訪問から
今回のシンガポールミッションで4社の現地旅行会社を訪問し、近江インバウンド推進協議会として準備および対応が必要なことが見えてきた。
歴史遺産と自然観光の解りやすいストーリー設定
シンガポールは1965年、マレーシアから分離独立して建国、今年50年になる。それまではオランダ、イギリス、日本、マレーシアなどの支配下に置かれていた。しかし多くの国民の意識は、多民族の都市国家として成立した時から芽生えたシンガポール人としての誇りが基礎となっている。学校で行う自国の歴史教育は独立以後であることから、歴史的好奇心は強いとは言えない。だが「海外旅行慣れしてるせいか、訪問国の歴史的建造物・美術品には強い関心を示す」と専門家は分析している。
また、シンガポールには山が無く、自然観光にも興味を持っている。しかし、旅行社オーナーの意見では、如何に解りやすく期待を抱かせるプレゼンを行うかが重要だとアドバイスを受けた。
体験型観光の整備
訪日して過ごす約7日間で、「食べる・買う・泊まる」という楽しみ以外に、「思い出に残る体験をしたい」という希望が多いという。今までのツアーコースの中でも参加体感型のものが人気が高かったそうだ。
茶道や華道、能・狂言・日本舞踊鑑賞などの日本ならではの文化体験、ものづくり体験、地域イベントへの参加、日本の産業の見学などが具体的なリクエストがあった。
また、シンガポールの殆どの家族は高層ビルが住居であることから庭を持てない。そこで和風庭園での体験はヒットする可能性が高いとのアドバイスを受けた。
今後のアクション・プログラム
現地の旅行会社や専門家から直接話を聞くと、これから準備しなければならないことが見えてくる。勿論、今回のミッションはシンガポール1カ国だけだが、ターゲット国のそれぞれの要望を把握することは重要である。観光消費額を増加させることを目標とする場合、富裕層をターゲットにした企画と準備が特に必要となるからだ。
最後に、目標指標(KPI)の重要性について。
海外とのビジネスでは、出張イコール成果(契約)である。今回のような視察渡航において、次のステップに繋げるための事前の目標設定が必要であると強く感じた。
シンガポールミッションの成果といえる点は「生の情報収集と日本に無い海外成功事例から生まれるアイデアの集積」にある。例えば来日のピークシーズンなどは既存のデータで知ることが可能だ。しかし現地旅行社から直接得られる情報では、どのような年代が何の目的で訪日するのかをリアルに知ることができ、それをベースにコース設定や商品開発に結びつけることができるからである。
また余談だが、ジュロン工業地域での労働者確保は、対岸のマレーシア人との間で所得格差を活かしたウィンウィンの関係が築かれていたのも印象的であった。さらに医療、飲料水の再利用計画など戦略的に計画が進んでいる。これはシンガポール政府と民間事業者(国際的な)との協力でのリピーターを増やすための「やみ付きになる地域」推進と、継続的な投資による愉しみの拡大路線(エンターテイメント施設やライトショーなど)によるもので、その効果は今後も続くだろう。
MISSION MEMBER: 木村泰造、一圓億夫、田中寿信、法村賢仁、小出英樹 計5名