公益財団法人大阪観光局専務理事 野口和義氏
大阪観光局(Osaka Convention & Tourism Bureau)は大阪の魅力を世界に発信するために2015年4月新しく設立された組織だ。(財)大阪コンベンションビューロー・(社)大阪府観光連盟・(社)大阪観光協会などの組織を一つに統合し、大阪府・大阪市・経済界が出資する公益財団法人として誕生した。理事長は、彦根商工会議所が昨年セミナー講師として招聘した元観光庁長官の溝畑宏氏が務めている。
野口和義氏は講演の冒頭で、「観光は、各地域の取り組みにより、地域独自の資源を掘り起こし、それに付加価値を加え、全国・世界に通用するものをつくり、その結果、地域外(国内外)からヒト、モノ、カネを集めることにより、地域にとって持続可能な社会をつくる総合的戦略産業である」とし、「2013年(平成25年)の国内における旅行消費額は23.6兆円。その経済への貢献度(経済効果)は、生産波及効果48.8兆円、付加価値誘発効果24.9兆円、雇用誘発効果 419万人、税収効果 4.3兆円。ツーリズム関連産業はすそ野が広く、その経済波及効果は絶大である」と強調された。
国内観光とインバウンド
2013年の国内における旅行消費額は23.6兆円だが、その内インバウンドの消費額は1.7兆円。伸びてはいてもおおよそ7%にすぎない。日本人国内宿泊旅行15.8兆円、日本人国内日帰り旅行4.8兆円、日本人海外旅行(国内分)1.4兆円。国内の観光客の動きも重要であることはいうまでもない。
国内観光とインバウンドは対立するものではなく、インバウンドに取り組むことで、もう一度、現在の観光産業の在り方を再構築し、どれだけ生産性の高い産業に育てていくことが重要だ。広域連携を視野に入れた日本版DMOは有効である。大阪観光局も日本版DMO候補法人に登録予定だ。
大阪の優位性、ゲートウェイ
大阪は、関西国際空港(KIX)・大阪国際空港(伊丹)・新大阪駅・大阪港などを有している。ゲートウェイとしての優位性を活かし「関西観光の拠点」としての機能を果たすために、更なるインフラ(交通・宿泊など)の充実と、東京・京都とは違う「観光地としての大阪の価値」を創造、発信していこうとしている。
現在、大阪の観光における魅力は「グルメ」「ショッピング」が中心だが、大阪観光局は今後、アジア市場からのリピーターや、欧米からの需要を取り込んでいくために、大阪が有する豊富な観光素材(歴史・自然・伝統文化・スポーツ・医療・水都大阪・建造物など)にその価値を見出し、磨き上げたうえでマーケットに発信する予定をしている。
野村氏は「関空はまだまだ滑走路に余裕がある24時間空港だ。関空に乗り入れている海外の航空会社やエージェントに協力を呼びかけていく。官製プログラムではなく、市民自らがまちづくりの一環として観光に取り組む意識の醸成が大事であり、今まで磨いて来られたものが観光資源として魅力的なものになり得る」のだと語った。
その時、近江はどうする?
大阪観光局は既に、京都・奈良とは広域連携が進んでいる。今後、複数の都道府県をつなぐ、テーマ性・ストーリー性を持った一連の魅力ある観光地を、交通アクセスも含めてネットワーク化し、外国人旅行者の滞在日数(平均6日~7日)に見合った、訪日を強く動機づける「広域観光周遊ルート」の形成が促進され、海外へ積極的に発信されることは予想できる。
大阪をゲートウェイに訪れる観光客に対して、京都・奈良という日本屈指の観光地と滋賀(近江インバウンド推進協議会)はどのように連携を組んでいくことができるのかがポイントであろう。
明らかなことは、「京都・奈良には無い魅力(強み)は何か」を考え、真摯に向かい合うことで生まれてくる小規模だが充実した(近江ならではの)体験型のプログラムの開発・今までに無かった観光コンテンツの創出に最優先で取り組まなければならないということだ。平均6日~7日の外国人旅行者の滞在日数のうち、近江での滞在を一泊〜二泊にもっていきたいものだ。
文化プログラムを近江で!!
鎌倉時代の代表的な和様建造物である金剛輪寺本堂「大悲閣」は国宝に指定されている。
現在、「大悲閣」の模型は、東京国立博物館から九州国立博物館に貸し出されている。
野口氏は「オリンピック文化プログラムの開催に、滋賀は最適の場所ではないだろうか」と、ロンドンオリンピックの文化プログラムを例に、2020年へ向けての方向を示唆された。
オリンピック憲章の根本原則第1には「スポーツを文化、教育と融合させ、生き方の創造を探求する」と明記されている。スポーツだけではなく文化が非常に重要だということだ。
文化プログラムは、直前のオリンピックが終わったときから、4年間の「カルチュラル・オリンピアード(Cultural Olympiad)」と呼ばれる期間に実施される。この期間中に、ロンドン大会ではイギリス全土で実に18万件の様々なプログラムが実施され、「ロンドン・プラス(London Plus)」という観光キャンペーンが展開された。海外からの観光客がロンドンに滞在するだけでなく、もう1都市、2 都市プラスして、他の都市にも足を延ばしてもらおうという英国政府観光庁による観光キャンペーンである。そして、文化イベントが観光に好循環を生み出したことはよく知られている。
イベント開催が目的なのではない。近江の魅力を世界の人々に知ってもらう契機となるよう、仕掛けることは可能だ。リオデジャネイロオリンピックの開催は、2016年8月5日〜21日である。まだ間に合うはずだ。
1964年の東京オリンピックでは「日本最高の芸術作品を展示する」というコンセプトで様々な公演や展示が行われた。東京国立博物館で行われた「日本古美術展」(10月2日〜10日)もその中のひとつだ。40万人が来場したという。この時の展示で、文部省は世界に誇る日本の建物として金剛輪寺本堂「大悲閣」(国宝)の模型(scale 1/10)を製作し、展示している。
リピーターの獲得に向けて
大阪における観光動向調査のひとつ「大阪への再来訪意向(訪問目的別)」で、「ビジネス・ミーティング」は95%、「MICE」では94%の人が「大阪へまた来たい」と回答しており、観光やレジャーなど他の目的での来訪以上に大阪への再訪意向が高いことが判っている。
大阪への来訪者の一定の割合を占めるビジネス客だが、観光もせず買物もしないという回答が多い。一方で、複数回来訪している人も多く、少しでも観光や買物してもらえるよう働きかけることにより、トータルで底上げにつなげていくことも考えられる。
また、「MICE目的」での来訪者は、単なる「ビジネス目的」に比べて訪問観光地も多く、平均買物金額も高い。旅行会社利用が多いにも関わらず観光地情報が不足していることも想定され、現地旅行会社等への更なる情報発信が必要であるという。
野口氏は、観光動向調査の説明の後、面白い統計があるとして「滋賀県を訪問する外国人観光客は他府県に比べて「観光以外」の割合が高い(表 認知度向上・リピーター獲得に向けて)。意図せず来県する割合が高く、認知度向上、リピーターとなるチャンスがある。観光以外で来県する外国人観光客に、時間のある時に何処を訪れてもらうかを考えるのも良いだろう」と示唆した。
滋賀県を「ビジネス・ミーティング」や「MICE」で訪れる訪日外国人に対してだけでなく、大阪・京都など大都市へ「ビジネス・ミーティング」や「MICE」で訪れる外国人に対して滋賀をアピールするのも有効だろう。
今後、近江インバウンド推進協議会は、大阪観光局と年に数度、連絡会議を開催し、継続した関係を構築していく。