Newsニュース

2016.03.10

近江インバウンドへの期待と課題を語る

『観光立国ニッポンの実現と地方創生』特別講演

日本政府観光局(JNTO)小堀守氏

日本政府観光局(JNTO)小堀守理事

 2015年9月30日。「観光立国ニッポンの実現と地方創生」と題し、日本政府観光局(JNTO)小堀守理事の特別講演があった。以下は、講演の要約である。

インバウンドの動向

 日本政府観光局は、海外における観光宣伝、外国人観光旅客に対する観光案内、その他外国人観光旅客来訪の促進に必要な業務を効率的に行うことにより、国際観光の振興を図ることを目的とする独立行政法人である。インバウンド戦略部、海外プロモーション部、コンベンション誘致部があり、外国人観光客来訪の促進を一番重要な目的として、国内・海外を合わせて約150名の体制で活動している。本部は東京、海外に14カ所の事務所を持っている。
 2014年のUNWTO(国連世界観光機関)の推定によると、国際旅行者数は11億3300万人、国境を越えて旅行をする人の数は、年間3〜4パーセントの伸びを示しており、2020年には18億人に達するのではないかといわれている。現状ではこの1割が中国人旅行者である。地域別のシェアでは、アジア太平洋、アフリカが着実に拡大するといわれている。
 UNWTOは、観光産業は世界のGDPの9%を占め、その率は更に上がる、11人にひとりは観光に従事している労働者であると発表している国際機関で、日本では国土交通省観光庁が正式なメンバーとして加盟している。
 インバウンドの動向は、2013年に1千万人をはじめて超え、昨年は1千340万人。今年8月までで1千287万人、前年比49.1%増となっており年間1千900万人を超えるのではないかと予想している(注: 2015年の訪日外客数は1,973.7万人となった)。インバウンドについては勿論、これからの未来、この伸びがずっと続くわけではなく、来年以降鈍化することが予想されるが、非常に好調であることは間違いない。
 訪日外国人旅行者の消費特性の現状は、1人当たりの消費総額では、ベトナム・中国・オーストラリアが旅行支出総額の御三家である。買物代だけをみると、中国が圧倒的に多く、続いてベトナム。一方、フランス、米国は消費総額では5位と9位だが、長期滞在されることもあり宿泊費・飲食費の割合が大きくなっている。

日本ブランドのギャップ

 さて、海外から日本はどのように受け止められているのか。
 2014年Future Brand社の「Country Brand Index」では、日本は総合ブランド1位、観光ブランド2位。世界経済フォーラムの「旅行・観光競争力指数」では、世界の9位となっている。一方で現状として外国人訪問者数の昨年実績は世界の22位、アジアの中で7位である。
 日本は、治安の良さや時間が正確な公共交通機関など良いイメージを持たれている。今、南ヨーロッパ、東南アジア、中国など訪日旅行ブームであり、日本に来たいというランクでは1位か2位のところが多い。潜在需要があることをしっかり認識しなければならない。高いブランド力と実際の訪日数のギャップを埋めることが急務なのだ。
 「知っている、いつか行きたい日本」(awareness)から「今行きたい日本」(motivation)へ!』というプロモーションがひとつの戦略であろう。

近江インバウンド拡大への期待と課題

 日本では人口減少社会が顕在化し、交流人口を拡大していこうと各地方都市が取り組んでいる。大雑把だが、11人の旅行者が来られると地方では、人口が一人増えたと同じ消費額になると考えられている。
 観光庁では、複数の都道府県をまたがって、テーマ性・ストーリー性を持った一連の魅力ある観光地をネットワーク化し、外国人旅行者の滞在日数に見合った「広域観光周遊ルート」の形成を促進し、海外へ積極的に発信する「広域観光周遊ルート形成促進事業」を実施している。6月に7カ所のルートが認定され、近江は、中部の「昇龍道(SHORYUDO)」と関西広域連合・関西経済連合会・関西地域振興財団が申請した「美の伝説(THE FLOWER OF JAPAN, KANSAI)」のルートと重なった地域である。それぞれのルートを活かして取り組むチャンスである。
 また現在、京都、大阪の宿泊施設が飽和状態で、滋賀県が宿泊先として注目されているのは事実であり、関西へのインバウンドはますます増える傾向にある。もちろん中国市場によるところも多く、個人旅行者が中国を含めて非常に増えている。欧米に比較しても60%以上はファミリー旅行者で、富裕層も含めて、リピーター化も進んでいる。このことも絶好のチャンスである。宿泊だけでなく、観光もしていただく・食事も楽しんでいただく・1泊ではなく2泊していただくことができるよう、これからしっかり取り組むことで、大きな成果が得られるのではないだろうか。
 近江は、他府県が羨むほど観光資源が豊富で、近江の魅力は非常に高いが、残念ながら認知されていないというのが事実である。また、奈良や京都のお寺と競合する部分もあり、その違いをどのように差別化しアピールしていくのかも課題だ。
 英語圏の外国人がみる「ロンリープラネット(Lonely Planet)」というweb siteには、彦根城の情報は掲載されているが、それ以外の観光施設についてはあまり詳しく紹介されていない。ひと言でいえば、滋賀県はブランド力が育っていないのが弱みになっている。欲をいえば、傑出した宿泊施設、たとえば五つ星のような旅館やホテルがあれば望ましい。
 また、海外の旅行雑誌やガイドブックに美しい効果的な写真付で掲載されなければ、画期的な情報の拡散は期待しにくい。
 近江インバウンドは今後、情報の発信だけでなくアクセスや多言語化など、様々な課題をクリアしていかなければならない。外国人目線でしっかり考え、観光のコンテンツの質を高めていくことが必要だ。どこの市場か、ターゲットを決めて取り組むのがよい。依頼があれば、JNTOから人材を紹介することもできるだろう。
 近江インバウンド拡大のためには、インバウンド誘致競争の激化をとりあげるまでもなく、インバウンド拡大に必要な3つの要素、「プロモーション強化」「予約手配の円滑化」「受入体制整備」の早急な整備が必要である。
 所謂、手配の円滑化ができなければ、団体、個人もインバウンドは期待できない。たまたま京都が一杯になり、滋賀に来ましたと、その場その場で受入れているだけでは大きな増客は望めないのである。  基本的なマーケティングプロセスは次の通りだ。

  1. ターゲットの絞込み
    ・市場、セグメント(年齢・所得層)、旅行形態(個人、団体)の絞込み
    ・大阪/京都から溢れた観光客の積極受入
  2. 調査・観光資源の絞込み(外国人視点)
    ・市場調査、著名旅行ガイドブック調査、モニター調査等 ・観光資源(ビジュアル、食、街歩き、体験、交流がキーワード)
  3. 情報発信ー欧米の個人旅行者重点
    ・ウェブサイト(ビジュアル及び体験重視型)
    ・観光案内所(DMO型提案機能=単なる情報提供、案内に留まらない)
    ・ガイドブック等への掲載情報充実が最重点
  4. 広域連携(滞在型、リピート型観光地への道標)
    ・大阪/京都(西日本の拠点)、信楽(焼き物とMIHO MUSEUM)、甲賀、長浜その他

 来ていただいた方に満足いただくためには、「おもてなし」という曖昧な言葉ではなく、ニーズにあった対応をしていく。ターゲットを絞り、調査し、観光資源を絞り込む。案内所は単に案内機能だけでなく、情報発信も提案力もある案内所であって欲しい。そういう、一つひとつが地元のインバウンドの客を増やし、地域経済の活性化につながるのではないだろうか。これからの協議会の活動が後押しをするに違いない。

小堀守氏 プロフィール (2015年9月当時)

昭和30年生まれ。東京外国語大学卒業後、特殊法人国際観光振興会(JNTO)入会。平成22年 総務部長・観光情報センター長、平成23年 海外プロモーション部長、平成24年 海外マーケティング部長を経て、平成26年統括役、平成27年4月理事に就任し、現在に至る。