2016.09.12

スペイン バスク地方視察レポート

近江ツーリズムボード会長 小出英樹

 世界で美食都市を目指し挑戦しているのは、大都市よりも中小規模都市が多い。それぞれの地域が持つ伝統的な第1次産業を資源として活用し、創造性を持った生産と料理方法のイノベーションを実践することにより、ガストロノミー(食文化)を地域政策の柱として活性化を図ることを目標としている。
 スペイン、サン・セバスチャン市18万6千人。近江ツーリズムボードがエリアと考える湖北・湖東地域は27.7万人(米原市3.9万人、彦根市11.3万人、多賀町0.7万人、豊郷町0.8万人、甲良町0.7万人、愛荘町2.1万人、近江八幡8.2万人)であり、美食都市を目指し挑戦するには最適の規模である。
 そして何より、近江地域は観光的付加価値(特に歴史遺産)が豊富であり、味覚的付加価値を創造することは大きな来訪者増加に繋がる可能性を持っている。美食都市の推進を都市政策として位置付けた上で、産官学協働で取り組めば、地域連携によるフードツーリズムの新たなモデルが確立できるのではないだろうか。

サン・セバスチャン旧市街

何故、美食都市を目指すのか?

 彦根商工会議所において、2014年に「彦根の都市ブランディングへの取組み」、その具体的手法として2015年に「観光集客産業を主軸とした地域経済活性化」を推進することを打ち出してきた。そして本年、「一般社団法人・近江ツーリズムボード(観光庁登録日本版DMO候補法人)」を設立し、地域連携を含んだスキームを構築、国内外からの来訪者の消費による経済パイの増大と、広義での観光サービス産業による雇用拡大と地域の全産業の活性化を目指している。更に、彦根商工会議所・近江ツーリズムボードは、起業促進などの突き抜けた動きを加速させることで、実感することが出来る成長の享受を可能とする体制への進化が期待されている。
 では、どのようにすれば国内外からの多くの方が来訪していただけるだろうか?
 他地域との差別化、独自性、そこに行かなければ「観ることができない」、「感じることができない」、「味わうことができない」ものが必須である。また一方、マーケティングの観点から来訪者ニーズを把握し、期待感を持っていただけるプレゼンテーションが必要であることは言うまでもない。
 我が地域は、歴史伝統を基礎とした多くの魅力ある集客素材を有している。勿論、それらを再編集し、更に磨き上げ商品価値を増加させアピールすることにより、観光消費額を増加させる智恵を出し具現化していく断続的な努力を怠ってはならない。
 では、彦根周辺の地域で集客のために更に必要なコンテンツは何か?幾つかある中で、最も重要で効果があると考えられるのが「美味しさの魅力」である。調査データを見てみても、「その地域の名物料理、特産食材を味わう」というのが来訪動機の上位ランクにある。つまり、美味しいものを求めて旅をするトレンドが増えてきているのだ。
 そこで、昨年より彦根市の新海・薩摩地区でホワイトアスパラガスに着目し、地域の方や行政と協働で増産へ挑戦し始めるとともに、それを「地域の食ブランド」として売り出すことに着手している。そして専門家からアドバイスを受け「美食都市」を目指すプログラム構築を行った。これは地域食材開発の第一歩としての位置付けである。

  1. 農商工連携による地域食材の開発及び増産
  2. 調理技術向上のための地域料理人への「セミナーの開催」(地域食材を使用)
  3. 地域料理をアピールするための「フードフェアの開催」(イベントによる集客)
  4. 地域特有の「フードスタイルの開発」(フードカー、仮設店などの研究と開発)

 つまり、地域経済活性化と住民の満足度を向上させるために、「美食都市に挑戦」し地方創生を加速化し推進していく。

スペインの観光について  

 日本では昨年、訪日観光客数が2000万人を超え話題になったが、スペインは観光先進国である。2015年統計で、6800万人の外国人観光客が訪れている。これは人口の1.5倍以上で、国際観光収支世界第1位であり、全GDPに対する観光GDP割合もトップである。
 この観光産業が発達した理由は、観光資源・気候・治安・交通手段などに加え、「食」と「宿泊」の充実が大きな要素となっている。更に各地域ごとが独自性を持ち、それぞれが魅力を磨きあげる努力を行ってきたからだ。
 全国的な自転車道の整備、博物館・美術館の建設など国・地方が協力しながら推進し、更に地方分権による個性的なまちづくりと観光産業人材の育成強化により成立している。また、文化芸術を重視し、建築においては世界中の著名建築デザイナー起用による公的施設や橋などが建造られ、観光資源となっている。
 各地域が、官民一体となり観光戦略を推進しているのを見ると、今後も成長が続くと感じられた。

グッゲンハイム美術館

サン・セバスチャン

 サン・セバスチャンは、フランス国境近くのスペイン北部のバスク自治州ギプスコア県の首都で18万人の人口を持つ。バスク語でドノスティアと呼ばれる。
 サン・セバスチャンが世界の美食都市として注目されているのは、この小都市にミシュランの三つ星レストランが4店、二つ星が2店、一つ星が4店もあり、さらにピンチョスと呼ばれる地方特有の串にさした小皿料理を出すバルが数百店あるからである。
 また今年は、ECが認定する「欧州文化首都」に選ばれており、各種文化イベントが催され、世界中から観光客を集めている。
 サン・セバスチャン市が美食都市になったのは都市戦略として、美食による集客に焦点を当て様々な施策を展開したからである。勿論、歴史のある保養地としてのインフラと海・山の幸の食材の豊富さもあったが、シェフたちがお互いのレシピをオープンにし、切磋琢磨して調理技術向上に繋げた結果でもある。

料理人育成システム

 今回、2011年にサン・セバスチャンにオープンした4年制先端的料理大学「バスク・クリナリーセンター」を訪問した。国、州、県、そしてサン・セバチャン市が大きな投資を行い、他に例を見ない設備を持った校舎を建設した。担当者の話では、市としてサン・セバスチャンを「料理のシリコンバレー」を目指すステップと考えているという説明だった。これにより、この地域での料理人の地位は高くなり、報酬も上がっており志望者や起業する若者も増えている。ここでも重要なことは「みんなで教え合うオープンマインド」の気風である。特別講師には、地元の著名シェフ以外にもスペイン大都市やパリなどの一流シェフも名を連ね、スペイン語と英語で授業が行われている。実技の他にも、分子料理学(分子ガストロノミー)と呼ばれる講座が有名である。これは従来、経験や勘で行った調理法を、物理学や化学の知識から解明し、これを使いこなして新たな料理提案や、保存方法の開発などを行う学問である。旧市内のバルの若手料理人に聞いた話だが、学費を貯めてクリナリーセンターで学びたい若者が多いらしい。

4年制先端的料理大学「バスク・クリナリーセンター」外観

「バスク・クリナリーセンター」の充実した設備

サン・セバスチャンのキャラクター 

 偶然、祭の日(セマナ・グランデ)に写真のようなキャラクター扮装した等身大人形に出くわした。
 案内人がいなかったので、詳しい由来が理解できなかったが、ナポレオン戦争でフランスに占領されていたこの街のコックや住民が、太鼓を鳴らして行進するナポレオン軍を馬鹿にして真似をしたのが始まりらしい。バスク人の誇りを受け継いでいるという。子ども達を柔らかな袋で叩きキャンディーをまきながら繁華街を練り歩いており、大層な人気だった。
 歴史上の人物を多く持つ彦根として、何かの参考になるかもしれない。
 最後に、スペインのバル、サン・セバスチャンのピンチョス、「美食倶楽部」の存在、バスク名産ワイン「チャコリ」、「料理学会」、各種料理コンクールについてなど、まだまだ報告すべき事項がある。それらは、今後の近江地域の美食戦略を展開する中で、皆さんとの話し合いのなかで共有したいと思う。

サン・セバスチャンの夏祭り、セマナ・グランデに登場するキャラクター「カベスドス」

「カベスドス」は観光客に大人気

スペイン発祥のアペタイザー「ピンチョス」

歴史的建造物を改修したスペインの国営ホテル「パラドール」