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2016.09.12

フードツーリズム&美食都市による地方創生 Part 3

味覚的付加価値の創造「美味しいものの無いまちには、人は来ない!」

 尾家建生(おいえたてお)氏は、大阪府立大学 観光産業戦略研究所・日本フードツーリズム研究会の代表を務め、観光アトラクション論、フードツーリズムを中心に、他大学教員・大学院生、都市コンサルタント、観光振興関係者などと共同研究をしている。
 「なぜ美食都市(ガストロノミック・シティ)」が注目されるのか?
 「なぜローカル・クールジャパン政策としてフードツーリズム」が注目されるのか?
 尾家氏の講演と、いくつかの論文を参考に、フードツーリズム、ガストロノミー、美食都市とはどのような都市なのかを明らかにしたい。Part 1はこちら Part 2はこちら

地方創生とガストロノミー

尾家建生氏

 地方創生とガストロノミーの関係は以下の通りである。

  • ガストロノミーは新しい文化と創造の産業の源である。
  • ガストロノミーは知識、伝統、記憶、イメージの集積であり、観光体験を生み出す。
  • ガストロノミーは生産者、料理人、事業者、メディア、市民と訪問者のネットワークである。
  • ガストロノミーは農業経済を多様化し、雇用を創造し、地域の魅力を増し、文化遺産を支援し、コミュニティへの帰属意識(アイデンティティ)を高め、観光シーズンを延ばし、農業生産や地元産品の生産を活性化する。
  • ガストロノミーは都市開発のエンジンとなることができ、まちのイメージを向上させることができる。
  • ガストロノミーはわが国にとって重要な産業となるインバウンド観光の競争力をつけることができる。

 内閣官房クールジャパン官⺠連携プラットフォーム ガストロノミー分科会は2016年3⽉、『⽇本版 ガストロノミー イニシアチブ構想案』の中で「経済波及効果の⼤きいガストロノミー分野と、成⻑する世界の国際観光市場の需要を取り込むことを⽬的とした、新たなローカル・クールジャパン政策として、⾷を通じたインバウンド振興・地⽅創⽣・農林⽔産業振興・外⾷産業活性化等を総合的に促進するためのガストロノミー⽴国総合戦略を構築し、関連政策を総動員し、活気にあふれた社会を築いていくことを期待」すると記している。

近江ガストロノミックシティの推進

 「欧州連合 宣⾔2014」に、ガストロノミーとは「健康的⽣活と⾷を通じた喜びを分かち合うための知識、体験、芸術、クラフトを統合した概念である」と謳われるように、ガストロノミーは地域の文化とライフスタイルを知るための欠くことのできない要素であると共に、観光の新しいトレンドに結びついている。
 美食都市、或いはグルメ都市は、旅行者をワクワクさせる魅力を持っている。観光客が訪問地を選定する要素に「食の魅力」が占める割合は大きい。また観光目的地での食体験が旅行者の満足度に大きな比重を占め、旅行消費額での比重も高い。「フードツーリズム」は、観光戦略の有力なコンテンツのひとつであり、ガストロノミー資源から観光アトラクションを創造することが、近江ガストロノミックシティへの未来を拓く。

 近江ツーリズムボードがエリアと考える湖北・湖東地域は27.7万人(米原市3.9万人、彦根市11.3万人、多賀町0.7万人、豊郷町0.8万人、甲良町0.7万人、愛荘町2.1万人、近江八幡8.2万人)であり、美食都市を目指し挑戦するには最適の規模である。
 そして何より、近江地域は観光的付加価値(特に歴史遺産)が豊富であり、味覚的付加価値を創造することは大きな来訪者増加に繋がる可能性を持っている。
 現状は、地場産業のものづくりの伸び悩み、人口減への不安、市街地商店街の衰退が表面化している。当然地域GDPも横ばい状態が続くと感じている事業所が多く、投資に対して消極的になっている。
 また地域独特の郷土料理も食材生産の変化により少なく、食による観光誘致もアプローチが弱い状況である。さらに地域コミュニティの行催事衰退により、食文化継承の重要な役割を担っていた料亭・仕出し屋も以前に較べ少なくなりつつある。
 このことから、今後展開する美食文化創造は、かつての伝統的食文化の掘り起こしによる再生と地域の伝統文化に合う新しい潮流を取り入れたものとなる。近江各地域がそれぞれの在来作物を掘り起こし、琵琶湖の水産物を加えた食材を使った美食料理と特産品を展開すれば、リピーターにも応えられる美食エリアとして認識される可能性が高くなる。

 また、近江地域全体で捉えるものと、各市町独自で開発するものとの両方が必要である。ブルゴス市(スペイン)や庄内地域(山形県)の事例で判るように、都市政策として位置付けた上で産官学協働で取り組めば、地域連携によるフードツーリズムの新たなモデルが確立できるのではないだろうか。
 「味覚的付加価値」と「観光的付加価値」による相乗効果を狙うのがフードツーリーズムの成立要因である。土地の景観やホスピタリティ、旅情、人々の生活習慣、歴史の発見、農水産物などの諸要素とフードツーリズムの美味との相互作用や一体化が、新しい観光体験となる。
 フードツーリズムにおいて食は「美味」でなければならない。そして美味は食の構成要素が観光資源となりうる最小限度必要な条件である。美味な食を構成する生産物、食材、料理人、食文化、景観、サービス、伝統の味、器などはすべて観光資源となりうる。美味しいものの無いまちには人は来ない!「近江ガストロノミックシティ構想」は、ガストロノミーによる集客力向上と地域経済活性化と地方創生の実現を目指す。