2016.08.01

フードツーリズム&美食都市による地方創生 Part 1

味覚的付加価値の創造「美味しいものの無いまちには、人は来ない!」

美食都市として注目を集めるスペインバスク地方 サン・セバスチャン。写真は旧市街。

尾家建生氏

 今、ローカル・クールジャパンの主役はガストロノミー(食文化をプラットフォームとした生活文化産業)だといわれている。2015年の訪日消費額は3・5兆円。その内飲食費は6420億円を占めている。2020年には訪日消費額7兆円、飲食費2兆円と予想され、日本のガストロノミーへの期待が高まっている。
 6月22日、当所議員総会において、『フードツーリズム&美食都市による地方創生』と題し尾家建生(おいえたてお)氏の講演があった。尾家氏は、大阪府立大学 観光産業戦略研究所・日本フードツーリズム研究会の代表である。観光アトラクション論、フードツーリズムを中心に、他大学教員・大学院生、都市コンサルタント、観光振興関係者などと共同研究をしている。
 「なぜ美食都市(ガストロノミック・シティ)」を目指すのか?
 2014年度の「ブランド委員会」の報告書にあるように、彦根市都市イメージとしての魅力として、歴史遺産、伝統文化、自然そして「ひこにゃん」 が挙げられた(大都市圏調査)。「旅の魅力」として、本来上位に来るべき「食」「宿」「土産物」などの評価が低かった。この3つのカテゴリー強化に取り組む必要があるが、来訪者増加に最も効果的と思われる「食」の魅力向上は早急に目指すべきテーマである。また、ローカル・クールジャパン政策として、経済波及効果の⼤きいガストロノミー分野は注目を集めている。
 今月は、尾家氏の講演と、いくつかの論文を参考に、フードツーリズム、ガストロノミー、美食都市とはどのような都市なのかを明らかにしたい。最後に「近江ガストロノミックシティ推進構想」について言及し たい。

日本のインバウンドの変動

 現在のインバウンド誘致の活況は2003年、小泉元首相の「観光立国」に始まる。この時期、2010年までの間に外国人観光客の「質」に変化があった。
 アジア・中国マーケットの活発化。外国人観光客国籍のマルチ化、個人旅行の増加、観光体験の多様化である。この変化は、LCC拡大・ビザ緩和・円安の安定化が大きな要因と考えられるが、原油の安値安定やSNSで情報が個人に行き渡り始めたという背景がある。
 2010年代は量の転換である。
 量が10年前の3〜4倍に増え、ショッピングによる経済効果が拡大し、東京や大阪などでは宿泊施設の不足が深刻化している。また、鹿児島をはじめとする主だった港には、中国から2000人、3000人を乗せたクルーズ船が到着するようになり、定期便の増加やチャーター便が地方空港に飛び始めるという現象がみられるようになった。
 東京オリンピック後、2020年代はどのような変化が予想されるのだろう。「質」の変化、「量」の変化が終り、「構造」の変化が起こるだろう。
 ひとつは、リピーターの増加と地方への展開である。非常に広域になってくると考えられ、2020年代には従来とは違った対応が必要になってくるのではないだろうか。
 このような「質」、「量」、「構造」の変動を前提に、フードツーリズム、「食」を目的にした観光について考えてみることにする。

フードツーリズムとガストロノミー

 比較的早くフードツーリズムを研究していたのがオンタリオ州の政府観光局だ。「フードツーリズムは、ローカル、宗教的あるいは国の料理、遺産、文化、伝統的あるいは調理技術を反映する食べ物と飲み物を、人が学び、称賛し、消費する観光体験である。」(オンタリオ州政府観光局・2005)と定義している。
 Hall and Sharplesは「フードツーリズムは余暇あるいは娯楽の目的での、ガストロノミックな地域への体験旅行である。それには食の第一次(農業・漁業)、二次(食品加工)の生産者への訪問、ガストロノミックなフェスティバル、フードフェアー、イベント、ファーマーズマーケット、料理ショーとデモンストレーション、高品質な食品の試食あるいは食に関係した何らかの観光活動を含む」(Hall and Sharples・2003)と定義している。簡単に言えば、フードツーリズムは食を目的とした観光活動ということになる。
 「美食都市」は、英語では「ガストロノミックシティ」である。
 ガストロノミーの語源は古代ギリシアにさかのぼり、 「ガスト」は「胃袋」のこと、「ノミー」は「…法則」「…学」を意味する。したがって、ガストロノミーは「美味学」「美食法」「美食術」と訳されている。ガストロノミーは古代ギリシアの詩人であり料理人であるアルケストラトスにより詩篇『ガストロノミー』で謳われ、近代に復活し、現代に至って成熟する。
 1826年、フランス人のブリア・サヴァランが出版 した「味覚の生理学」(邦題「美味礼讃」)によってガ ストロノミーはひとつの学問体系として提唱された。サヴァランは、ガストロノミーとは人間に関わる整理された知識体系であり、食物に関わる人たちの一定の原理であり、食に関わるコミュニティ社会の原動力であるとしている。
 現代におけるガストロノミーの一般的な定義はブリタニカ百科事典の「いかに食材を選択し、料理し、給仕 し、美味な食を楽しむかの術を指していう」が簡明である。しかし、この定義はサヴァランの描こうとした壮大な意図は欠けているといわざるを得 ない。そして、現代の「ガストロノミー」は、ブリア・サヴァランの時代より更に、多様な意味を有している。
 ひとつは、ブリア・サヴァランが求めた学問としての「美味学」である。
 次に、シェフのガストロノミーである。食材の選択・料理技術・ホスピタリティ・レストラン経営など、いわゆる「美食術」である。
 そして、「地域のガストロノミー」が現代には生まれている。「美味しいものを求める」というマインドだ。
 郷土料理は、そこに住む人々が、自分たちの作った農産物、或いは海産物を加工し、いかに美味しく食べるかを追求した結果である故、ガストロノミーだということができる。