2017.08.25

モバイル空間統計による外国人観光入込客数現状把握調査結果

近江ツーリズムボードでは、平成28年度に「モバイル空間統計調査」を実施しました。調査エリアは近江ツーリズムボードの連携地域である彦根市、米原市、愛荘町、甲良町、多賀町、豊郷町の2市4町に近江八幡市を加えた7市町。そもそもモバイル空間統計とはなんなのか、導入する意義や事例等も含めて紹介します。

モバイル空間統計とは

 国内屈指の携帯電話キャリアである(株)NTTドコモのビッグデータ活用の一環として(株)ドコモインサイトマーケティングが取り組んでいる人口統計の一種である。(株)NTTドコモでは、携帯電話ネットワークで電話やメールなどをいつでもどこでもご利用できるように、各基地局のエリア毎に所在する携帯電話を周期的に把握している。この仕組みを利用して携帯電話の台数を集計し、ドコモの普及率を加味することで人口を推計することができる。モバイル空間統計は年間400万台のローミング情報から作成した新たな人口統計で、サンプルの質・サイズ、集計方法がしっかりした唯一のICTを活用した手法である。
 そこでまず気になるのは「個人情報の流出じゃないか」と思われる方も少なからずいらっしゃるだろう。ご安心いただきたい。(株)NTTドコモでは細心の注意を払い、図1のように「非識別化処理」「集計処理」「秘匿処理」の3段階の情報処理を経て、個人識別ができないデータに加工・集計をしたうえで個人情報保護を図っている。

図1 携帯電話ローミングデータの情報処理

本調査の目的

 観光庁でも近年懸念されているように、これまでの既存の観光統計では、外国人の入込客数を正確に把握することは出来ていない、もしくはできないといっても過言ではない状況であった。なぜなら、既存の観光統計の調査手法は主な観光施設や集客施設等からの情報を集計・集約するという方法であり、その施設が外国人を区分けしていなければ、外国人観光入込客数ゼロとして報告があがっている可能性が往々にあったからだ。その証拠に公表データを見ると、2市4町の内、外国人観光入込客数ゼロの自治体が存在している。本当にそうなのかもしれないが、実態がどうなのか、誰も検証できない状況であったことに変わりはないだろう。そこで、(一社)近江ツーリズムボードでは、内閣府まち・ひと・しごと創生本部が運営する地域経済分析システム「RESAS」に掲載されている「外国人滞在分析」の諸元、「NTTドコモ モバイル空間統計」に着目し、より正確な外国人入込客数を把握するためにデータ入手の交渉を行った。これにより正確な外国人入込客数を把握することと既存の観光統計との違いを比較し、より実態に近いデータを見極めるという2つの目的達成を目指したのである。正確なデータがなければ、適切な計画を練ることが困難を極めることは容易に想像できる。

その差は一目瞭然

 ではその2つの目的「より正確な外国人入込客数を把握する」と「既存の観光統計との違いを比較し、より実態に近いデータを見極める」が具体的にどのような結果となったのか見てみる。比較すると、数値が不明であった部分は数百~数万単位の入込客数が当てはまり、すべて明らかとなった。一つ目の目的「より正確な外国人入込客数を把握する」はある一定の成果があったと言えよう。  次に、明らかとなった数値で何がわかるか、地域ごとのデータに目を向けると、彦根市に関しては、かなり近い数値であることから、比較的観光統計が正確であったことがわかるものの(外国人集計を行っている宿泊施設が多いことも寄与していると思われる)、全体的に過大評価気味であったことも同時に見て取れる。特に2015年に関してはモバイル空間統計と比べて1万人程度過大であることから、伸び率は22.9%(既存)から37.4%(モバイル)となり、想定よりも大きい。  米原市に関しては、既存統計よりもモバイル空間統計数値の方が大幅に大きく、既存統計の2~3倍の外国人観光客が来訪している。前年比を見ても、既存調査では15.4%も減っているにも関わらず、モバイル空間統計では39.4%も増加している。もし既存統計を元に観光戦略策定を行っていれば、真逆の方向に行きかねない結果である。 愛荘町に関しては、既存調査に比べてモバイル空間統計では6~8倍の結果が出ている。前年比は既存調査ではゼロ(普通に考えれば奇跡的、もしくは意図的な数字と取れる)、モバイル空間統計では2,496人減、32.4%減少という結果となった。他地域に比べ大幅な減少であるため対応策を練る必要があるだろう。  豊郷町は既存調査で600人の減少の結果、2016年はゼロ、増減率はなんと100%減少であるが、モバイル空間統計では1,193人から1,241人へ微増している。根本的な戦略見直しが必要であろう。  甲良町は既存調査で両年ともゼロ、モバイル空間統計では857人から1,489人へ、なんと73.7%もの増加である。外国人入込客を獲得した要因を分析し、強化することで町の産業を生み出すことができるかもしれない。  多賀町は既存調査で両年ともゼロ、モバイル空間統計では2,736人から2,612人への微減という結果が出た。外国人が来ているということを認識し、インバウンド戦略を練って、予算化することで門前町の活性化に繋がっていくかもしれない。

図2 モバイル空間統計調査結果

モバイル空間統計結果をいかに活用するか

 以上から今回行ったモバイル空間統計データにより、これまでの地域インバウンド戦略のかじ取りが大きく変わっていく可能性を秘めていることがわかっただろう。次の課題はこのデータを元にどのような戦略や計画を立案していくかということである。外国人観光客誘致に関するハード・ソフト整備に係るコストと経済波及効果を天秤にかけていくことで、極端に言えば、推進するのか、切り捨てるのか判断していくことになる。また、これまでの取り組みや施策も大きく影響してくるだろう。既に取り組みを始めていたり予算を投入している地域に関しては、減少増加に関わらずその動向に合った推進戦略を練っていかなければならない。逆に全く取り組んでいないが自然増している地域はこれから新たな戦略を立てて行く、もしくは様子をみる、または切り捨てるという選択ができる。いずれにしても今回調査によりどの地域も千人以上の外国人観光客が既に来ているということがわかった。その観光客を地域資源と捉えれば、立ち寄られた際にポケットマネーを如何に落としていただけるかという工夫を凝らすだけで地域観光産業が潤う可能性があることは見逃せないポイントである。
 また、この調査に加えて、まち・ひと・しごと創生本部が運営する地域経済分析システムRESASの観光マップを合わせて活用することで、この外国人観光客が一体どういった動きをしているのかということが推察できる(図3)。2015年の古い情報であるが、京都からの流入が最も多く、その次は岐阜県。このことから推察できるのは、JRや高速道路からの流入ルートがメインで、その中でも関空を主とした関西方面から移動が多いということである。
 例えば、外国人観光客誘致に関するシティプロモーションを考える際に、関空でのプロモーションが有効ではないか、もしくは関空と主に取引している海外エージェントと結びつくのが効果的ではないか、など戦略のアイデアを膨らませることができる。市町の行政ルートから関西の観光関係団体から情報を入手することでさらにその戦略の幅は広がっていくだろう。
 情報化社会が成熟してきた今、より正確な情報を如何に入手し、分析し、組み合わせて、活用していくかはすでに非常に重要な手法となっている。国内で注目を浴びている観光産業に関しても例外ではなく、より正確な情報を如何に入手し、分析し、組み合わせて、活用することにより、綿密で周到な戦略を立て、行動した地方行政、民間企業、各種団体がイニシアティブを獲得していく時代である。データを入手したのは始まりに過ぎない。如何に活用し、行動していくかが鍵を握っている。

図3 RESAS外国人移動相関分析(2015.1−6)