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2016.04.12

地域の課題解決にビジネスチャンスがある

〜篠山城下町ホテルに学ぶ〜 前編

 高齢化と生産年齢人口減少がいよいよ顕在化するなか、インバウンド誘致は地方創生に欠かせない視点となっている。2015年の訪日外客数は前年比47.1%増の19,737,000人。過去最高であった2014年の13,413,000人を600万人余り上回った。円安による割安感の定着、ビザの大幅緩和、消費税免税制度の拡充等も増加を後押しした結果となった(JNTO 統計)。そして、訪日経験が多い外国人ほど地方への訪問意欲が高くなる傾向があり、ますます地方のインバウンドは加速していく。
 各地方自治体がアイデアを競い地方創生やインバウンド推進に取り組むなかで、地域に密着した事業、言い方を変えると「地域の課題の解決につながる事業」を創出し、「地域経済活性化の担い手」となることができる企業活動が求められている。そこには中小企業やベンチャー企業が成功を収めるビジネスチャンスが眠っている。
 トレンドは「個人化」「共鳴・共感」。見極めなければならないのは「ターゲット」、そして「量を取るか質を取るか」である。常に強調してきたが、観光集客の「質」を高める発想が重要である。
 例えば、従来、観光振興にあっては、一年間に何百万人の観光客を呼び込んだのかという「人数」が指標として重視されてきた。しかし経済効果を考える場合、人数だけではなく、その街での消費額こそ意味がある。日帰り観光から宿泊観光への転換、さらには連泊してもらえるような滞在型の観光地づくりが必要だ。
 今号では「篠山城下町ホテルに学ぶ」と題したが、昨今話題の「民泊」特需を期待しての特集ではない。学ぶべきはいかに地域の課題解決をビジネスチャンスとし、地域に貢献できるかである。
 人口減少・都市間格差は、地方都市の直面する重要な課題である。彦根商工会議所は、地域への誇りと愛着を醸成する地域経営の視点で、観光によるまちづくりに取り組み、ブランド開発・インバウンド推進にも傾注している。地方創生やインバウンドの推進を追い風とし、地域の課題を解決する新規事業や起業、若きアントレプレナーの出現に期待したい。

篠山城下町ホテルNIPPONIA

 ニッポニア(NIPPONIA)は、各地に点在して残されている古民家を、その歴史性を尊重しながら客室や飲食店、または店舗としてリノベーションを行い、その土地の文化や歴史を実感できる複合宿泊施設として再生していくプロジェクトであり、そのフラッグシップとなるのが「篠山城下町ホテルNIPPONIA」である。
 篠山の城下町には古民家が数多くあり、昨年10月、古民家4棟をリノベートし、宿泊施設としてオープンした。今後も城下町内の他の古民家をリノベートし、宿泊棟としてオープンさせる予定で、町のいたるところに宿泊施設が存在し、また町内にあるショップやレストランなどの施設と連携することで、町全体がホテルとして機能する新しいスタイルの複合宿泊施設を目指している。
 築100年超の古民家を含む4棟はONAE(オナエ)、SAWASIRO(サワシロ)、NOZI(ノジ)、SION(シオン)と、菊の名がついている。菊と篠山の関わりは古く、旧篠山藩主が当時の将軍から拝領したと伝えられるのが「お苗菊」。毎年秋に3000鉢の菊が並ぶ「篠山市菊花展」など、菊は今も、篠山の人々に愛されているからだという。
 NIPPONIAの取り組みは、平成26年地域再生法に基づく「地域再生推進法人」の指定を受けた一般社団法人NOTEをはじめ、各分野のエキスパートが参画し、関西圏国家戦略特区の特区事業認定を活用しながら、建築基準法の緩和や旅館業法の特例、また、REVIC(地域経済再生支援機構)の観光活性化マザーファンド(※)を中心とした民間資本の投融資を受けて実施するなど、日本初の事例として注目を集めている。

※観光活性化マザーファンド……地域の観光活性化を目的として株式会社地域経済活性化支援機構、株式会社日本政策投資銀行、株式会社リサ・パートナーズの3社で組成された、マザーファンド。

 画期的なのは、特区事業に認定され、9室以下の「ホテル」、4室以下の「旅館」が実現できるようになり、旅館業法の玄関帳場(フロント)設置義務についても規制緩和により複数の分散した宿泊施設を、一ヶ所で運営管理することが可能になった点である。4棟ある篠山城下町ホテルNIPPONIAのフロントはONAE棟にある。

一般社団法人 NOTE(ノオト)

 NIPPONIAの推進母体は、一般社団法人NOTEだ。篠山城築城から400年の2009年に設立。農村に残る「地域コミュニティ」に豊かな社会づくりの源泉があると考え、人々の日々の暮らしを書き留める(NOTEする)ことで、この土地の歴史と文化を受け取り、未来に継承することをコンセプトとしている。
 NOTEはこれまで兵庫県の丹波篠山を拠点に古民家の再生活用を中心とした地域づくりを展開してきた。丹波・但馬エリアなどで約50軒の古民家を宿泊施設や店舗等として再生活用の実績をもち、2014年からは、行政・金融機関・民間企業・中間支援組織が連携して運営する「地域資産活用協議会 Opera」の事務局として、歴史地区再生による広域観光圏の形成に取り組んでいる。古民家再生支援サービスの他、古民家再生支援をはじめ、着地型ツーリズム支援、6次産業化支援、地域ICT情報戦略支援、キャッスルウェディングなど、地域を活性化させていくための仕組み作りを支援している。
 先人たちが残した技術や資産に、知恵をつかい、生業として継承していくことは難しい。地域づくり、地域再生の主役はその土地の人たちであり、NOTEはあくまでも地域(コミュニティ)のパートナーであり、中間組織として役割を果たしている。

後編へ続く