2017.03.30

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会

文化プログラムを近江で!

「文化プログラム」について勉強会を開催

文化庁長官官房政策課 文化プログラム推進室担当室長 髙田行紀氏

 2017年2月7日(火)、彦根経済戦略研究会が、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、2020年東京大会)の「文化プログラム」について、講師に文化庁長官官房政策課 文化プログラム推進室担当室長 髙田行紀氏を招き勉強会を行った。
 冒頭、小出英樹会頭は、「地方都市が抱える大きな悩みは、人口減問題や地域の存在意義である。この2020年東京大会の文化プログラムは、地方都市が抱える問題を解決するひとつの処方として考えていくべきだろう。
 文化財の活用は、保存が優先される場合がほとんどだったが、今後は、いかに経済的な部分や教育的な部分で活用していくかが重要なテーマになってきている。文化事業の充実やスポーツ振興は、そこに住む人々の幸福度や満足感に直結している。
 2021年には関西ワールドマスターズゲームズ、2024年に滋賀国体、更に、決定はしていないが、2025年に大阪府・大阪市で大阪万博の開催計画がある。「三方よし」という近江商人の考え方は、観光振興や雇用の拡大など企業活動に文化資源を活用した彦根らしい地域創造にプラスになるに違いない」と話した。

文化プログラム」とは何か?

 髙田氏の講演のポイントをまとめると次のようになる。
 「オリンピック憲章」の根本原則には次のように記されている。
「オリンピズムは、人生哲学であり、肉体と意思と知性の資質を高めて融合させた、均衡のとれた総体としての人間を目指すものである。スポーツを文化と教育と融合させることで、オリンピズムが求めるものは、努力のうちに見出される喜び、よい手本となる教育的価値、社会的責任、普遍的・基本的・倫理的諸原則の尊重に基づいた生き方の創造である」。
 オリンピック競技大会組織委員会は、短くともオリンピック村の開村期間、複数の文化イベントのプログラムを計画しなければならない。このプログラムは、IOC理事会に提出して事前の承認を得るものとする。(第5章・第39条)

 開催国は「文化プログラム」の実施を直前のオリンピックが終わったときから、4年間の「カルチュラル・オリンピアード(Cultural Olympiad)」と呼ばれる期間に実施を義務付けられている。
 2012年のロンドンオリンピックでは、音楽、演劇、美術、文学、映画など数多くのイベントが、まちなかや世界遺産、景勝地などイギリス全土で、何の前触れもなく次々と実施された。プログラムは11万7千件に達した。ロンドンオリンピックの文化プログラムは、近代オリンピック史上最大の規模と内容で開催され、そして間違いなく誰もがロンドンオリンピックに参加するチャンスを提供したのである。
 特に、イギリスを代表する現代美術家の回顧展や、37ヶ国の劇団が37の異なる言語でシェイクスピア作品を上演した国際演劇祭、「アンリミテッド(Unlimited) プロジェクト」、「この国のあらゆるベルをできるだけ大きく、速く、3分間鳴らせ!」(リレーイベント)、「ハットウォーク(HAT WALK)」など、クリエイティブなイベントは話題となった。
 「ハットウォーク」では、ロンドン市内のイギリスの歴史を物語る人物、シェークスピア、ウェリントン侯爵などの彫像 21体を、有名デザイナーが手掛けたユニークな帽子で飾った。「アンリミテッド プロジェクト」は、障害のあるアーティストの活動を支援する事業であり、プログラムは2012年以降も世界各地に広がり、活動が続けられている。

金剛輪寺「大悲閣」
1965年の東京オリンピックでも「日本最高の芸術作品を展示する」というコンセプトで様々な公演や展示が行われている。東京国立博物館で行われた古代から江戸時代に至る「日本古美術展」もそのひとつだ。40万人が来場したという記録が残っている。ちなみに、当時の文部省は世界に誇る日本の建物として金剛輪寺の「大悲閣」の模型(スケール 1/10)を制作し東京国立博物館に展示した。「大悲閣」は「弘安11年(1288)1月建立の銘」が須弥壇にあり鎌倉時代の代表的な和様建造物として国宝に指定されている。現在、「大悲閣」の模型は、東京国立博物館から九州国立博物館に貸し出されているということだ。

 文化庁は2020年東京大会を契機として、「文化芸術立国」を実現するため、古典芸能や地域文化(祭りや伝承)、食、アニメなど、日本文化の魅力を世界に発信し、文化芸術を資源とした観光振興や地方創生、地域活性化につなげようとしている。また、そうした文化プログラムの取り組みに参加することで、2020年東京大会の気運を盛り上げる目的がある。既に、文化庁の取り組みは昨年10月から本格的始まっており、歌舞伎、オーケストラ、オペラ、スポーツ文化ワールドフォーラムなど、様々なイベントが各地で開催されている。

 では、2020年東京大会の「文化プログラム」に認証され、実施するにはどのようにすればいいのか。
 実は明確に文化プログラムとはこういうものだという定義があるわけではない。自分たちが企画する事業やイベント、取り組みを「東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会」または、「beyond 2020プログラム」に申請して認められれば、文化プログラムという位置づけとなる。組織委員会に認証された事業や企画が狭義での「文化プログラム」となる。また、「beyond 2020プログラム」の認証要件は「日本文化の魅力を発信する事業・活動であること」「 多様性・国際性に配慮した、事業であること」となっている。

文化プログラムを近江で!

 実は、2020年東京大会の「文化プログラム」について、 2015年12月1日に開催されたセミナー「地方都市のインバウンド戦略」(近江ツーリズムボード主催)において、講師の公益財団法人大阪観光局専務理事  野口和義氏より、「文化プログラムを近江で!」という提言を既に受けている。野口氏は「オリンピック文化プログラムの開催に、滋賀は最適の場所である」と、ロンドンオリンピックの文化プログラムを例に、2020年へ向けての方向を示唆された。
 ロンドンオリンピック文化プログラム開催期間中に、「ロンドン・プラス(London Plus)」という観光キャンペーンが展開されている。海外からの観光客がロンドンに滞在するだけでなく、もう1都市、2都市プラスして、他の都市にも足を延ばしてもらおうというイギリス政府観光庁による観光キャンペーンである。そして、「文化プログラム」が観光に好循環を生み出したことはよく知られている。
 「文化プログラム」としてイベントを開催するのが目的なのではない。近江の魅力を世界の人々に知ってもらう契機となるよう、仕掛けることが大切なのである。(近江通信VOL2・2015.12.21.再掲)。文化芸術を資源としたプログラムの実施だけではなく、地方創生につながる観光振興・雇用や産業の創出を見据えた未来の計画が必要だということだ。そのためには、「オープンガバメント」、「トレード・オン」という考え方が必要であり、オール彦根で取り組まなくてはならないのである。
 余談だが、大正元年(1925)にジャパン・ツーリスト・ビューローが設立され、海外へ向けた誘致活動が行なわれている。当時も伝統文化や自然が、観光のセールスポイントだった。その時、活躍したのが吉田初三郎(1884〜1955)であった。独特の鳥瞰図で多くの沿線ガイドを描き、昭和5年(1930)には、「Beautiful Japan」のポスターを手掛けている。
 初三郎は『琵琶湖名所鳥瞰図』(琵琶湖遊覧御案内 太湖汽船株式会社 1926年頃)にこんな一文を添えている。「富士と琵琶湖、そは世界に對して、我等日本人が優美を誇る象徴の双璧であらねばならぬ。予曾つて鐵衜省より發行の、鐵衜旅行案内裝幀並に挿畫執筆に當り、洽く全國に寫生旅行を試みたるも、未だ琵琶湖の如く、交通至便にして風光美の雄大なるを見ず」。
 21世紀の今も、近江は交通至便にして風光明媚、文化プログラムの開催に、最適の地なのである。

オリンピックのレガシー

 彦根商工会議所顧問の橋爪紳也氏の著書に『ツーリズムの都市デザイン 非日常と日常の仕掛け』(鹿島出版会2015)がある。その中で氏は、ロンドンオリンピックについて触れている。
 「オリンピックのレガシー」と題されたパートのセンテンスを幾つか抜粋しておく。「ロンドンの場合、オリンピックの誘致が、一連の都市再生事業のひとつとして位置づけられていた点が注目される」。「ロンドン市が追求した大会計画の最大の特徴は、「オリンピック前にオリンピック後をデザインする」、いわゆる「レガシー・プラン(遺産計画)に重きを置いた点である」。
 誰もが企画し参加が可能な文化プログラムだが、近江ツーリズムボードや商工会議所が仕掛けるならば、「祝祭が終わった後に」(『ツーリズムの都市デザイン 非日常と日常の仕掛け』コンテンツタイトル)彦根に何を残せるか……、地方都市が抱える問題を解決する処方として取り組みたいものである。