2017.02.27

近江(Ohmi)エリアの認知度をあげるために

『えんとつ町のプペル』から考える観光戦略

 お笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣氏が書いたビジネス書『魔法のコンパス』(主婦と生活社)が話題になっている。西野氏は1999年に梶原雄太と漫才コンビ「キングコング」を結成。その後フジテレビの人気番組「はねるのトびら」などに出演し、テレビでの仕事が絶好調だったにも関わらず、“自分を進化させるため”レギュラー番組以外のテレビの仕事をすべて辞めるという選択をし、絵本の執筆活動を開始した。3冊目に出版した絵本『えんとつ町のプペル』は発売1か月もたたないうちにアマゾンの絵本ランキングで1位を獲得。
 その他にも、クリエイター顔負けの「街づくり企画」、「世界一楽しい学校作り」など未来を見据えたエンタメを生み出し、注目を集めている。
 その戦略は近江エリアの認知度をあげるためのヒントになりはしないだろうか。

『えんとつ町のプペル』は、全ページ無料公開されてる。

無料公開という戦略

 西野氏が絵本『えんとつ町のプペル』を出版する際に考えたのが、絵本の原画を無料でリースし、絵本の内容は無料で公開するという異例中の異例の戦略。
 周囲から猛反対されバカにされた異例の無料公開という方法には西野氏の緻密な戦略があった。1万部売れれば大成功と言われる絵本業界において、西野氏の絵本は無料公開しているのにも関わらず、重版に重版を重ね、現在は絵本としては異例の27万部の売り上げを記録している。 
 なぜ無料公開しているにも関わらず絵本が売れているのか?

売りたいものと体験を結びつける

 西野氏が絵本を無料公開した理由は、絵本の「おみやげ化」という戦略。
 「人は必要なものは買うが、必要じゃないものは買わない。米や水やトイレットペーパーは買うが、小説やDVDを買うのは渋ってしまう。生きていく上で必要じゃない小説やDVDを買ってもらうには、そうしたものに魔法をかけて“必要なもの”にしていくしかない。そのための魔法が、おみやげ化にある」と西野氏は言う。
 例えば京都に行った人は、必要じゃないとしても、京都に行ったという体験を形に残すため京都のおみやげを買ってしまう。 仮に平凡なハンカチであったとしても、「京都に行った体験の思い出」と結びつくと、そのハンカチは平凡なものから大切なものへと変化する。人は自分の体験や思い出と結びついたものに対しては、必要じゃなくても買ってしまうという魔法が働くのだ。
 この考え方で、絵本の原画を無料リースしたところ、絵本の原画展は全国各地で開催され、絵本の原画展を見に行った人たちは、「原画展を見に行った」という体験を形にするため、出口で絵本を買っていくというのだ。
 また、絵本はネット上でも動画でも無料公開されている。
 それでも、ネットやYoutubeなどで、その無料公開された絵本を読んだ人たちは、その体験を形に残したいという心の作用が働き、やはり絵本を買ってしまうのだ。
 こうして、新刊本の無料公開という異例の戦略で誰でも無料で読める絵本は、結果としては27万部という大ベストセラーとなった。

人が旅行をするのは、確認作業のためである

 西野氏は、「人が時間やお金を割いて、その場に足を運ぶ動機は、いつだって確認作業のためで、ネタバレしているものにしか反応していない」と分析している。
 つまり、テレビやインスタグラムで紹介され、頭の中にインプットされたものを、実際に確認してみたい・体験してみたいという気持ちが働き、そのために人は労を惜しまないのだ。
 このことを観光の視点から考えると、京都京都とあれほど頭に刷り込まれている訪日観光客は、その頭にインプットしている情報を確認し消化するために京都に行かなくてはならなくなっているということだ。
 実際に京都に行って感動するか、いい体験ができるかということよりも、まず、頭の中の情報を実際に目で見て確認することで消化したいという欲望が働くのだ。
 この近江エリアの中には、素晴らしい自然や体験などの多くの魅力がつまっているが、いくら素材が良くても、いくらいい体験ができる可能性があるとしても、そんなことは、インバウンド旅行者には何の関係もないということだ。
 日本に来ている旅行者たちは、[素晴らしい未知の体験]よりも、まずは[頭にすでにインプットされた情報を消化]するために、テレビや本、ネットで見た通りの体験をして満足したいのだ。

まずは、認知度をあげて近江エリアを知っている人の分母を増やすこと

 西野氏の原画展は無料でリースしていたため、全国で次から次へと原画展が開催された。
 絵本は無料でネットでも公開されているし、原画展に来た人は、作品を自由に撮影しても投稿してもOK。絵本が無料公開されていることで、絵本を「買わない」と判断する人の数も当然増えたが、それ以上に無料公開によって絵本の認知度は飛躍的に増加。無料公開のおかげで、絵本の存在を知っている人の数(分母)が劇的に増えた結果、売り上げ27万部に結びつく形となった。

1枚の写真の影響力

 人は「未知の体験」よりも「すでに頭の中にインプットされているイメージの確認作業」をしたがる。 テレビなどでも話題になった千葉県の「濃溝(のうみぞ)の滝」は、たった1枚の写真がインスタグラムから火が付き、まるでジブリの世界みたいだという評判から連日多くの人が殺到するようになった。
 たった1枚の美しい写真に火かつくだけで、人はその写真通りのイメージ(頭にインプットしたイメージ)を確認するために、どんなに遠くても、不便なところでも、レストランがなくても、駐車場がなくても、やってくる。
 美しい情報が頭の中にいったんインプットされると、どうしてもそれを実際に見て確認せずにはいられないのだ。
 近江(Ohmi)の認知度を広めていくためには、ユーザー数が6億人を超えたインスタグラムや10億人のユーザーがいるYoutubeに積極的にアプローチして、そこにアップする数を増やしていくことが必要である。  とにもかくにも近江(Ohmi)という場所の存在をまずは知ってもらうこと、インバウンド旅行者の頭の中に近江エリアの映像やイメージをインプットしていくことが最優先である。
 但し「下手な鉄砲」を数撃てばいいのかというとそうではない。一億総批評家と言われるこのネット社会において、「下手な鉄砲」をやたらと数撃つことは、近江エリアにとってマイナスのイメージを作ってしまうことになりかねない。
 近江エリアに来てみたくなるような「良質なもの」「良質なイメージ」でPRしていかなくては意味がないのだ。人の心の奥深くに響くような良質な弾を見つけ出し、できるだけ多く撃っていくことで、このエリアのイメージと認知度を高めていくこと。それが近江ツーリズムボードの大きな役割の1つなのかもしれない。

参考: 西野亮廣(2016)『魔法のコンパス 道なき道の歩き方』主婦と生活社